秘密の地図を描こう

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「あの子はリーダー向きだそうだよ」
 笑いながらギルバートがそう言ってくる。
「……レイのことかね?」
「あぁ。キラ君の判断では、だがね」
 しかし、間違っていないような気がする、と彼は続けた。
「そうか」
 キラがそう言ったのであればそうなのだろう。
「しかし、あの子も卒業か……長いようで短かったね」
 いろいろと、と付け加えた彼の表情が微妙に曇る。彼がそのような表情をするのはどのようなときか、ラウも知っていた。
「状況はよくなさそうだね」
「残念だがね……」
 キラのためにも、あと少し持ちこたえたかったが……と苦笑を浮かべる。
「あちらの方が先に食い込んでいたしね」
 あの国には、と続けた。
「なるほど」
 確かにそうだろう、とラウは思う。あの国にはセイランがいる。彼らを通じて間接的に影響を及ぼしているのが連中だ。
「キラ君の立場がますます微妙になるな」
「それもあるが……別の意味でも彼をほしがっているらしい」
 困ったことに、とギルバートは言う。
「……どういう意味だね?」
「彼の戦闘能力は見過ごせない。そう言うことだよ」
 そして、使い捨てにする予定ならば、延命処置については考えなくてもいい。
「本人は生かさず殺さずと?」 「言葉は悪いが、そう言うことだよ」
 地球軍――いや、ブルーコスモスの考えそうなことだ、とラウはため息をつく。
「それでキラ君はあのままアカデミーにおいておくつもりなのかね?」
 それとも、とラウは問いかける。
「レイに新型を預けないのであれば、そのまま一緒に移動してもらうのがいいだろうね」
 自分もこれからますます家を空けることになるだろうし、とギルバートは口にした。
「ふむ……それならば私も彼らと一緒にいた方がいいかもしれないね」
 二人だけでは微妙に不安だ。
「治療はもういいのだろう?」
 そう問いかければ彼はうなずいてみせる。
「しかし、そうなれば私は寂しくなるね」
「三十路を過ぎた男が何を言っているのか」
 あきれたようにそう言い返す。
「いくつになっても、寂しいときは寂しいと思うよ」
 まぁ、いい……と彼はすぐに口にする。
「時間ができたら、私がそちらに押しかければいいだけのことか」
 そちらの方が気が楽かもしれないね、と彼は口にした。
「それでは意味がないのではないかね?」
「何。愛人を囲っているわけでもなし、かまわないだろう」
 むしろ、その方が喜ばれるのではないか。そう言いかけてやめる。下手なことを口にしてとんでもないことを返されては困ると思ったのだ。
「好きにしたまえ」
 ため息とともにそう言う。
「しかし、問題は彼らの家事能力だが……キラ君は当てにしない方がいいかな?」
 そうなると、日常の家事は自分がするのだろうか。
「まぁ、教えてみるのもいいかもしれないね」
 少なくとも、自分の気分転換にはなるだろう。
「……ほどほどにね。彼には仕事もしてもらう予定だし」
 もっとも、自分の方できちんと選別する予定だが……と彼は続ける。
「それがいいだろうね。あぁ。必要なら私が肩代わりをするが?」
「何、このくらいは何と言うこともないよ」
 気分転換にはちょうどいい。そう言うのであれば、好きにさせておこう、と思う。
「それよりも、君は万が一の時の相談役になってくれるとうれしいね」
 いやでも、あの二人にはばれるだろうから……とギルバートは言った。
「……彼らも実戦に戻るか」
「不本意だが、妥協してもらわなければなるまい」
 優秀な人材が足りない、と彼はため息をつく。
「確かに、ね」
 自分が言うのはおかしいかもしれない。だが、戦争はできれば避けてほしいものだ。そう考えていた。

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